2010年10月31日日曜日

次に来るものは何か?

Twitterでのこんなやりとりをきっかけに @M_Kosa さんが、
まだ翻訳されていなかった1996年のジョブズのインタビューを全文翻訳してくれました。

ちなみに僕がこの記事を読んでみたいなぁと思ったきっかけになったTweetはこちら

翻訳後、PDFにして16枚分もの大作。
ジョブズ好き、ネット好きの皆さんにシェアします。


Steve Jobs: 次に来るものは何か?
By Gary Wolf

Wiredによるインタビュー


今までの中で2度、スティーブ・ジョブズは正しかった。1度目はアップル。2度目はNeXTにいた時だ。マッキントッシュは大成功を納めたが、NeXTは大失敗だった。NeXTはその評判の悪いバグだらけのブラックボックスを売ることができなかったのだ。それでもジョブズはどちらの時も正しかった。パーソナルコンピュータがいずれ全てつながる運命にあり、ネットワークを基盤とするものになるという基本的な見方は、かつて彼がパーソナルコンピュータが個人向けの電化製品となることを予想していたように、とても正確だった。

今、ジョブズは未来について3つ目の見解を示している。彼が今最も注力しているのがオブジェクトだ。オブジェクトとは新しいアプリケーションを作る際に組み合わせるソフトウェアのモジュールのことで、おもちゃの家を作るときのレゴブロックのようなものだ。(“GetReadyforWebObjects”を参照)ジョブズはオブジェクトこそが指数関数的な成長を示すWorldWideWebにおいて鍵となるものであり、そしてウェブの商業利用が更にウェブ自体の成長を加速させるものだと言っている。

昨年の霧がかった朝、私はジョブズに会うために、カリフォルニア州のレッドウッド市に向けて車を走らせていた。本部の建物はとても静かで清潔で、シリコンバレーで成功している典型的な会社が次の段階を目指しているような、そんな雰囲気があった。しかし皮肉なことにNeXTは成功例では無い。投資家から集まった何億ドルという資本を使い果たしたうえ、NeXTはコンピュータを製作するのを辞めて、代わりにNextstepのオペレーティングシステムを開発/販売し、オブジェクト指向技術の拡張に力を注いでいったのだ。

ジョブズは世界で初めて、完全にコンピュータから生まれた映画であるトイストーリーを作ったPixarAnimationStudiosを起したにもかかわらず、ここNeXTではそれについて全く興味を示していなかった。(“TheToyStoryStory,”Wired2.12,page146を参照)ジョブズは1986年にPixarを立ち上げた。それは彼が、LucasfilmLtd.のコンピュータ部門を6000万ドルで買収し、Pixarの株式公開と重なって一夜にして億万長者になる準備が整っていた時だった。ジョブズにとってはPixarの件は終わったことになっていて、トイストーリーも完成し、新規株式公開の話は他にやらせることにしていたのだ。

Pixarについてだけ話していた幹部もいたかもしれない。しかしジョブズはウェブオブジェクトやNeXTに関する野望以外のことは語らなかった。彼は次の大きなものに完全に集中していたのだ。それはそれで良かった。結局、人というのは何か大きな失敗をしたときに面白くなる。そして彼がアップルから追放されたこと、NeXTで奮闘したことやPixarで大成功したことを経て、ジョブズは今2週目の人生に向かっているのだ。彼は一体何を得たのか?

私たちがインタビューを始めるにあたって、ジョブズは不機嫌だった。彼はもう社会に革命を起こすことなんかに興味をもっておらず、テクノロジーの変化が我々の直面している重大な問題を解決することは無い、そう私に言ってきたのだ。ウェブの将来は大企業にゆだねられ、そこに多くのお金がつぎ込まれる。そして、そここそがNeXTがその商品を投入していくところだと。

昔の革新的なAppleやNeXTの初期の時代の彼と比べ、このスティーブ・ジョブズの変わり様に、私は正直少し驚いた。しかし、会話が進むにつれてすこしずつ、つながりが見え、彼の不機嫌さも和らいできた。そしてウェブによる民主化効果についての推測や、その民主化の動きをマイクロソフトによって遮られないように守るという想いについて話してくれた。彼の古くからのライバルに対する意識からか、全てのウェブ関連の関係者はウェブをシンプルなものに保ち、HotJavaのように急成長しているクライアント側の強化の動きを防ぐべきだという主張をしていた。

かつて、ジョブズはアメリカの教育における熱心な擁護者であり、コンピュータを学校に導入しようと努力した。Appleと教育関係者の結びつきはMacintoshのマーケットを構成するための鍵だった。そしてNeXTの機器は元々、生徒や先生のためだけに向けられたツールであった。今、ジョブズはテクノロジーが私たちの教育システムの問題を解決するものではないときっぱりと結論を出している。彼の新しい解決法は明らかにローテクだ。

新しいスティーブ・ジョブズは新しいメディアが全ての人が情報発信者になると信じる幼稚な理想主義者をあざ笑う。彼はウェブの中心が商業利用になると見ている。そしてその商業利用の中心はアメリカの各業界が一人一人の消費者に個別の商品を提供することにある。忘れられもしない1984年、Macintoshのコマーシャルからの暗黙のメッセージは「人々に力を」だ。(Power to the People)ジョブズのウェブオブジェクトに関する見解は少し違うメッセージがある。それは「彼らに望むものを与える」(Give the People What They Want)だ。


Wired:マッキントッシュコンピュータは発売後10年の方向性を決定づけた。同じようにウェブも今日の方向性を決定づけるものだと思いますか?

ジョブズ:デスクトップ業界は死んでいる。革新的なものは事実上何も出ていない。マイクロソフトがほんの少しの工夫で優位に立っている状態だ。でもそれも終わり。Appleは負けたんだ。デスクトップの市場は暗い時代に突入し、そしてその暗い時代というのは今後10年か、ずっと続いていくだろう。

この状況はマイクロプロセッサーが出てくる前にIBMがコンピュータ業界からたくさんの革新的なものを出してきていたときと似ている。結局はマイクロソフトが自己満足に陥って崩壊すると思う。そしてもしからしたら何か新しいものが育つかもしれない。でもそれが起こるまで、何か基礎的な部分での技術変化が起こるまではダメだね。

今一番面白いのはオブジェクトとウェブだよ。ウェブが面白いのには2つ理由がある。1つはユビキタスだ。そのうちにウェブ接続できる場所がそこら中に現れるだろう。そして、ユビキタスなものはなんでも面白くなってくる。2つめは、マイクロソフトがウェブを独占するような方法を思いつくとは思えないからだ。これからとても多くの新しいアイディアが生まれてくる。そしてそのアイディアは今のような暗い独占的な状態とは異なる場を生み出すだろう。

Wired:なぜ、こんなにも急速にウェブが広まったと思いますか?

ジョブズ:ウェブが急速に広まった数ある理由の中で1つあげるとすると、それはシンプルさだ。とても多くの人々がウェブをもっと複雑なものにしたいと思っている。彼らは処理をクライアント側にもたせたりだとか、あれこれしたがっている。僕はそういうのがあまり早く起こらないといいと思っているけどね。

例えるなら、へんてこなターミナルがウェブブラウザの役割を担い、ウェブサーバーが全ての処理を行っていた時のような、昔のメインフレームコンピュータの環境みたいだよ。このシンプルなモデルはユビキタス化することで、大規模なインパクトを与えたんだよ。

Wired:それからオブジェクトについては?

ジョブズ:1979年にXeroxParcに行った時、僕はそこでとても原始的なグラフィカルユーザーインターフェースを見た。それは全然カンペキじゃなかった。でも10分以内に、この世の中にある全てのコンピュータがいつかこんなふうになるんだと思ったよ。そうなるまでにかかった時間や、それにと伴い誰が勝者/敗者になったのか、議論の余地はあるよ。でも「この世の全てのコンピュータがGUIベースになった」ということに関しては議論の余地はないよね。

オブジェクトも同じだよ。一度オブジェクトというものを理解したら、これからの全てのソフトウェアはオブジェクトを使って書かれることになるというのがハッキリ分かるよ。さっきと同じように、それにどれだけの時間がかかって、誰が勝者で敗者になるのかというのは分からない。でもこのオブジェクトへの変化自体は避けられないものだと思うよ。

オブジェクトは、これから5年もしくは何年でもいいけど、全てのソフトウェアが書かれる方法になる。それにあらがうことはできないし、明らかだ。それが起ころうとしているのはホントに素晴らしいことだよ。

Wired:オブジェクトはウェブにどういった影響を与えると思いますか?

ジョブズ:今現在、ウェブを使って商品やサービスをお客さんに提供している人達を考えてみてよ。ウェブで商品やサービスを扱う全ての会社はそれぞれの会社に合わせたとても膨大な量のアプリケーションソフトウェアを書かなくてはいけない。ただ、棚から商品を取り出して買うということではないんだ。商品を買うためにウェブに接続して、注文管理システムや収集システムに接続しなくてはいけない。信じられないくらいとてもたくさんの処理が必要になるんだ。

作らなければいけないアプリケーションの数は指数関数的に多くなっていくだろう。もし10分の1の時間でそれらのプログラムをかけるようにならなければ、おしまいだよ。

小さなソフトウェアのパッケージであるオブジェクトが生み出す結果は、他のやり方で作るソフトウェア開発の10〜20%の労力でソフトウェアを開発できることなんだ。

Wired:私たちは、オペレーティングシステムをもつことがデスクトップの戦いに勝利をもたらしたことを目撃しています。ウェブではどうやったら勝つことができるようになるのでしょうか?

ジョブズ:ウェブは3つのもので構成されている。1つはクライアント。2つめは回線。3つめはサーバーだ。

クライアント側にはブラウザソフトウェアがある。ブラウザはいずれ無料になってしまうから、お金を生み出すという意味ではブラウザソフトウェアで誰かが「勝つ」ということは無いだろうね。それからハードウェア。もしかしたら誰かがとっても面白いウェブターミナルとハードウェアを開発して売ることがあるかもしれないね。

回線に関しては、RBOCs(Regional Bell Operating Company)が勝つだろう。来月あたりに彼らがたくさんのサービスを月額25ドル以下で提供してくると思うよ。家までISDNを引っ張ってきて、小さな箱をPCにくっつけて、インターネットのアカウントをもつというのがごく一般的になるだろう。RBOCsはみんなをウェブにつなげるための会社になるよ。

彼らには既得権利があるからね。彼らはケーブル会社に対抗して、お客さんを確保しおきたいんだ。これは今この瞬間起こっていることだよ。見えないだけでね。地下に埋まっている気の根っこみたいなんだけど、数年の内に現れて大きな木が見えるようになるよ。

サーバーに関して、Sunなんかはサーバーを売るいいビジネスをしているよね。でもウェブサーバーのソフトウェアの話をすると、どの会社も1桁より大きいマーケットシェアをもっていない。パブリックドメインのソフトウェアを無料で入手できて、しかもかなり質がいいんだから、ネットスケープなんかほとんど売れない。買えるものよりも、無料の方が質がいいって言う人もいるくらいだからね。

他の人がウェブアプリケーションを作るために、人々はこのとてもシンプルなウェブサーバーの上に色んなものを積み重ねていく。そしてそこにボトルネックがあるんだ。僕たちはそう判断したんだよ。そこにこそ大きく貢献できることがあるし、たくさんのお金を稼ぐチャンスがあるんだ。それががまさにWeb Objectsだよ。

Wired:他にはどんな機会があるのでしょうか?

ジョブズ:ウェブから最も利益を受ける人は誰だと思う?誰が勝つと思う?

Wired:売る方?シェアする方?

ジョブズ:売る方だよ。

Wired:出版ですか?

ジョブズ:出版だけじゃない。あらゆるビジネスだよ。みんなそのうちお店に足を運ばなくなるよ。そして色んなものをウェブから買うようになる!

Wired:民主化ツールとしてのウェブはどうなのでしょう?

ジョブズ:僕がやったことを見てもらえば分かるとおもうけど、今までやってきたことは民主化の要素を含んでいるよ。ウェブはとてもよく民主化の役割を担っている。とある小さな会社がウェブ上では大企業と同じように大きく見え、大企業と同じようにアクセスしやすくなっている。大企業は何億ドルもかけて流通経路を作った。そしてウェブはそのアドバンテージを完全に無効化してしまうんだ。

Wired:そのウェブにによる民主化が一巡したあとの経済の展望はどうなると思いますか?

ジョブズ:ウェブは世界を変えるものではない。少なくとも次の10年間は。それは世界を強化するだろう。そして一度強化されると、民主化が起こるのを目の当たりにするだろう。
ウェブは全ての人を取り込むわけではない。もしウェブがこの国の10%の商品やサービスを巻き込んだら、驚異的だ。僕はそれ以上いくとおもうけど。結果的にウェブは経済においてとても大きな部分を占めるとおもう。


[革命を見直す]

Wired:何かこのテクノロジーによって驚かされることがあるとしたらそれは何でしょう?

ジョブズ:僕はもう40歳だ。世界を変えるなんてことはないよ。ホントに。

Wired:たくさんの人が残念に思いますよ。

ジョブズ:申し訳ないけど事実なんだ。子どもを持つということはこういうものへの見方を変えてしまう。我々は生まれ、ほんの短い時間だけ生きて、そして死んでいく。長い間そうであったし、テクノロジーがそれを変えるなんてことはない。

こういうテクノロジーというのは人々の生活を楽にする。本来接することのできなかったような人同士も触れることができる。仮に先天性欠陥症の子どもを持った場合、同じような境遇の親や支援団体、医療関係の情報や最新の薬に関する情報を知ることだってできるかもしれない。こういったものは生活にとても大きな影響を与える。僕はそこを軽く見ているわけではない。でも「新しい技術で全てが変わる」というようなことを常に言っているのは良くない。重要だからと言って必ずしも世界を変えるものである必要はないんだ。

ウェブはこれからとても重要になってくる。でもそれが何百万もの人々にとって人生を変えるようなイベントになるか?ならないだろう。多分ね。でも今の段階でははっきりとYESとは言えない。恐らく徐々にみんなに浸透していくものだと思うよ。

人が初めてテレビを見た時のようにはならないだろうね。ましてや、ネブラスカに住む人が初めてラジオを聞いたときのような衝撃にはならないだろう。ウェブはそれほどまで大きなインパクトを与えるものでは無いと思う。

Wired:ではどうやってウェブは私たちの社会に影響を及ぼすのでしょう?

ジョブズ:我々は情報社会の中にいる。でも、僕は情報社会の中にいるとは思わない。人は昔と比べてあまり考えるということをしなくなった。主な原因はテレビだ。人は読む量も減ったし、考えることも減った。だから僕はこれからより多くの人がもっと多くの情報をウェブに求めるとは思わない。もう既に僕たちは情報で埋め尽くされているんだ。いくらウェブが大量の情報を提供しても、みんな消化しきれないだろう。

Wired:問題はテレビだと?

ジョブズ:若いときは、テレビを見るし考える。何か陰謀があるんじゃないかと。誰かがテレビを通して自分たちの頭を悪くしようとしているのじゃないかと。でも少し成長すると、そんな陰謀なんて無いことに気づく。テレビは単純に、人々に欲しいものを与えているだけなんだと。それはホントに気の滅入るような考え方だよ。陰謀があると考える方が楽観的なんだ!バカなやつらを打ったっていい!自分たちは革命だって起こせるんだ!って。でもテレビはホントにただ単純にビジネスをしていて、人が欲しがるものを与えているだけなんだよ。それが真実なんだ。

Wired:ではスティーブ・ジョブズは、私たちにこれから「どんどん物事は悪くなっていく」と言っているのでしょうか?

ジョブズ:悪くなっていっているじゃないか。そんなことみんな自覚しているよ。そう思わないのかい?

Wired:思います。でも私はここに来たら何か問題を解決するような、良くしていくようなものが見つかるんじゃないかと希望を持っていたんです。あなたは本当に世の中が悪くなっていくと信じているのですか?少なくともあなたが今やっていることは、世の中を良くしていくものだと感じているのですが。

ジョブズ:いや。世の中は悪くなっていっているね。ここ15年は悪くなり続けているよ、確実に。それには2つの理由がある。まず、世界的にみて人口が急増している。その勢いに対して社会の構造や生態系、経済から政治まで、対応しきれていないんだ。それにこの国に関して言えば政治の世界に賢い人があまりいない。そして人々は自分達が決めなくてはいけない重要な問題に対して注意を払っていないんだ。

Wired:でもあなたは変化への可能性というものにとても楽観的ですよね?

ジョブズ:僕は人が気高く、高潔で、賢い人もいると信じているという点においては楽観的だよ。僕は人に対してとても楽観的な見方をしているんだ。個人として人というのは生まれつき善良だと思う。でも僕は、人々が集まってグループを成したときに関しては悲観的な考えを持っている。色んな意味でこの世界で一番運の良い場所であるこの国でおきていることに関しては常にとても注意して見ているよ。でも見ていても、この国の人達が僕たちの子どもたちのために良い環境を残してあげようとしていないように思えるんだ。

シリコンバレーを作ったのはエンジニアだ。彼らはビジネスを学び、たくさん他のことも学んだ。でも彼らは人間っていうものを本当に信じている。もし彼らが、クリエイティブで賢い人達と一緒に必死に働けば、人類が直面しているほとんどの問題なんて解決できる。その点に関して僕は信じているよ。

基本的にエンジニア的な見方を持っている人達はこういった問題を解決できる立場にあると思うんだ。でもこの社会では、それが上手く機能していない。こういう人達はそういった政治的なプロセスに興味を持っていないんだ。なぜなんだろうね。

Wired:テクノロジーは教育を改善することで世の中に貢献できるのでしょうか?

ジョブズ:僕はかつて、テクノロジーが教育を助けるものだと思っていた。学校にコンピュータ関連の機器を寄付したという意味では誰よりも先駆けていたし。でも、問題はテクノロジーで解決できるものではないという結論に至ったんだ。教育で起こっている問題はテクノロジーでは直せない。どれだけテクノロジーを駆使しても、少しも変えることのできるものではないんだ。

これはきわめて政治的な問題だよ。社会政治的だ。問題は協会にある。教育協会の拡大化と大学進学適性試験の点数の降下をグラフに表せば反比例の関係にあることが分かる。問題は学校の教育協会なんだ。官僚機構なんだ。教育の分野でのやり方で一番いいと思うのはバウチャー制度だとおもう。

僕には高校に行く前に数年間私立学校に通っている17歳の娘がいる。この私立学校は僕が見た中で一番いい学校だ。アメリカの最も良い学校100にも選ばれているし、とてもいいんだ。学費は一年に5,500ドルだから、ほとんどの親には払えない金額だ。でもそこの教師は公立の学校よりも少ない給料でやっている。給料は先生のレベルとは関係無いんだ。僕はその年、州の会計担当者にカリフォルニア州では子どもを学校に通わせるのにどれくらいのお金を出しているのかを聞いたんだ。たしか4,400ドルだったと思う。年間5500ドルを用意できない親がいる一方、1年に1000ドル用意することができる親はたくさんいる。

もし我々が親に4400ドル分の券をあげたら、あちらこちらに学校ができるだろう。みんな大学を出て「学校を始めよう」って言うよ。どうやったら学校のビジネスパーソンになるかというMBAコースもスタンフォードにできるかもしれない。そしてもしかしたら、若い理想主義的な人達が学校を始めて一生懸命働くかもしれない。

もし自分たちでカリキュラムを決めることができたらやるんだよ、みんな。もし子どもができたら考えるんだ。彼らに何をしっかり学んでほしいか。学校で習うほとんどのことは役に立たないものばかりだ。本当に大切なことは若いときにも学べるのだけれど、ほとんどの人は年を取ってから学ぶんだ。そして考えだす。自分が学校のカリキュラムを決めれたらどうやろうかなって。

それっていいよね。でも今はできない。今の学校で働くなんてどうかしている。やりたいことをやれない。選びたい本も、カリキュラムも選べない。とても狭い分野でしか教えれないんだ。だれもそんなことやりたくない。

これが教育問題に関する解決方法だと思う。残念ながらテクノロジーじゃない。全ての知識をCD-ROMに入れることで問題が解決するわけじゃないんだ。全ての学校にウェブサイトを作ることはできる。当然悪いことじゃない。それを教育の問題を解決するものとしてやっていてはダメなんだ。

リンカーンは彼の両親が自宅で勉強を教えているときにウェブサイトを持っていなかった。それでも彼はとても面白い人になったよね。歴史的な前例から見てもテクノロジーが無くたって、僕たちは素晴らしい人間になれるんだ。同じく前例から見ると、テクノロジーがあると人はどんどん面白くなくなっちゃうんだよ。

それはあなたが20代だった頃にはテクノロジーが世界を変えると思っていたかもしれないが、今はそんなに簡単な問題じゃない。ある意味ではテクノロジーが変えるかもしれないし、またある意味では変えないかもしれない。


[ビジネスに良いものはウェブにも良い]

Wired:5年前は誰もウェブというものを知らなかった。もしかしたら3年前でも多くの人からは真剣に受け止められていなかった。なぜこんなに急速にウェブが普及したんでしょうか?

ジョブズ:すごいことだよね。デスクトップ市場には無かった現象だ。

Wired:でもNeXTを含め、なんでみんな驚いているのでしょう?

ジョブズ:ちょっと電話に似ているね。世の中に電話が2つしか無いときはあんまり面白くない。3つもそんなに面白くない。4つも。100コあったらもしかしたらちょっとだけ面白いかもしれない。1000コになったらもう少し面白い。多分10,000コぐらい電話が普及してから面白くなるんじゃないかな。

ウェブサイトと何百万もしくは何万人という人の組み合わせがどうなるかなんて、多くの人には見えていなかった、想像すらできていなかったんだ。だから昔は100人、200人なんて面白くなかったんだ。ある時、その数が臨界点を超えてとても早くとても面白くなった。それでみんな「コレはすごい!!」って言うんだ。

ウェブを見ていると、PC業界の初期の頃を思い出す。誰も何も知らなかった。専門家なんていなかった。全部の専門家が間違っていた。ただものすごい可能性を秘めていたのは確かだ。制約も無く、定義もされず、ただ素晴らしかった。

仏教で「初心者の心」という言葉がある。初心者の心を持つということは素晴らしいことだよね。

Wired:先ほど、ウェブとオブジェクトの親和性についてお話しされました。これら2つは一緒になってまた新しいものを生み出すのですよね?

もう一つ。あなたはウェブで何をしたいですか?

ジョブズ:我々は4つのことを考えている。

1つめはシンプルなサイト作りだ。それが現在99%の人がしていること。もし、そういうことをしたいのであれば、何百もの無料のウェブサーバーソフトウェアをインターネットから得て、使えばいいだけだ。何の問題もない。クレジットカードのトランザクションをしているわけでもないから、セキュリティも大きな問題にはならない。

2つめは複雑なサイト作りだ。人々はより複雑なサイトを作りはじめている。これは12から18ヶ月以内に爆発的に普及するだろう。それが次のウェブ業界での大きな変化だ。フェデックスのウェブサイトで荷物をトラッキングできるのを見たことがあるかい?フェデックスではそれを作るのに4ヶ月かかったんだ。とてもシンプルなものなのに。4ヶ月だよ。それを4日や2日や1日でやれたらいいよね。

3つめは商業利用だ。それはウェブと注文管理システムと配送システムをつなげなくてはいけないし、複雑なサイトを作るというよりももっと難しい。まだそれができるまでは2年くらいかかるんじゃないかと思う。でもそれも確実に大きな波になるよ。

最後は内部のウェブサイトだ。インターネットというよりはイントラネット。1つのアプリケーションをMac、PC、UnixなどそれぞれのOSに合わせて作るよりも、1つのプラットフォームを超えたアプリケーションを作るようになって、みんながウェブを使うようになる。これからは企業が何個も、いや何百ものウェブサーバーを内部で管理して、内部でコミュニケーションをとれるようにするだろう。

この4つのうちの3つはカスタムアプリケーションが必要だ。オブジェクトはそこに活用される。僕たちの新しい商品、Web Objectを使えば、10倍の速さでウェブアプリケーションを作れるようになる。

Wired:ウェブは経済にどういう影響を与えるのでしょうか?

ジョブズ:我々は情報社会で生活している。情報というものはとても入手しにくいもので、特に欲しい場所で欲しいときに手に入らない。そこが問題なんだ。

フェデックスが競合他社に勝てたのは荷物トラッキングシステムのおかげだ。荷物トラッキングシステムをウェブに導入する会社は素晴らしい。僕はいつも使っているしね。とってもいいんだよ。とても安心するんだ。そういった情報を他の会社から欲しいと思っても普通は無理なんだ。

でも情報を提供するというのも非常に難しい。自動車販売店を例にあげてみよう。相当な金額のお金を在庫に費やされている。在庫はいいものではない。在庫は直接ものすごい量のキャッシュと結びつくし、車が壊れる危険性も、時代遅れになってしてしまう可能性もある。それを管理するにも膨大な時間がかかる。それに大抵、欲しい車や欲しい色の車はそこには無い。だから彼らは駆け引きをしなくてはいけない。そんな在庫が無くなったらいいと思わないかい?たった1台の白い車だけ運転用に用意しておいて、他の色も見れるようにレーザーディスクを用意しておくだけ。あとは車を注文して1週間程度で納車できるようにする。

今の車のディーラーは「1週間で納車するなんて無理だ。3ヶ月はかかるんだ」と言うよ。そこで「あ、ちょっと待って。私はピンクのキャデラックに紫色のレザーシートがいいんだけど、どうして1週間で手に入らないの?」と言うと、「作らなきゃいけないんですよ」と言われるよ。それでもあなたは「キャデラックを今日から作り始めるの?どうして今日ピンク色に塗ることができないの?」と尋ねる。「私たちはあなたがピンク色を欲しがっていたとは知らなかったので」とディーラーが答える。「わかった。でも今、ピンク色の車が欲しいの」とあなたは言う。「ピンクの塗料が無いんです。ピンク色の塗料が手に入るまで時間がかかるんです。」「塗料を作っている会社は今日ピンク色の塗料を作り始めるの?」「そうですね。でも彼らに伝えるまでに2週間かかりますから」「レザーシートはどうなるの?」「あぁ、紫色のレザーシートですか。それは入手するのに3ヶ月かかってしまいます。」

このやり取りを振り返ると、時間がかかっているのは物をつくる工程ではないことに気づく。情報がシステムを流れていくのに時間がかかるかだ。電子機器は光の速さかそれに近い速度で動くのに。

情報をシステムに行き渡らせるのはとても大変なんだ。ウェブは情報を出すというところにも、情報を入れるというという部分にも突破口となりうるんだ。

Wired:一般的にはウェブが個人の情報発信においてルネサンスとなると言われているますが、あなたのウェブにたいする見解はそれとは少し異なるのですね。メディアに取り上げられない人が情報発信をするチャンスができるという見解に対して。

ジョブズ:そこに関しては何も悪いことは無いよ。ウェブはすごい。だって誰もあなたに情報を押し付けることはできないんだから。欲しかったらその情報を取りにいかなきゃいけない。ウェブで情報発信できるようにすることもできるし、誰もそのサイトを見ないこともある。それはそれでいい。正直言うと、何か言いたいことのある人はすぐにウェブで情報発信するべきだと思うね。

しかし、テクノロジーによってどうその人の生活が変わるかに着目すると、カスタマイズした商品に情報付け加えることは少なからず違いを生む。あなたがお店にいくと、そこにはたくさんの種類のトイレットペーパーがある。チューリップの模様があるものやないもの。あなたはそこに立って選択する。チューリップの模様があるものがいいと。
僕はチューリップの柄が無いやつがいいけどね。

Wired:私もそうです。香り付きではないタイプのものが。でもそのカスタマイズはその時あなたの選択にとても関連性がありますよね。平均的な人にとって、情報発信者や生産者として関連を持った方が、高い価値を感じる。

ジョブズ:それには完全に同意できないな。一番良いウェブに対する考え方は、ウェブはお客さんへの直接的な流通経路だという見方だ。それが情報であれ、商業的なものであれ。それは途中の仲介者を迂回するもの。気づいてみると、この社会にはとてもたくさんの仲介者がいる。そして彼らは一般的に物事を遅くさせる。値段も高くなる。仲介者をなくすことはとても大きなインパクトを生むだろう。

Wired:今後は、今のように大きな企業が経済の中心になっていくと思いますか?大企業はバラバラになるという人もいるようですが。

ジョブズ:そうは思わない。大きな企業だからといって問題があるわけではない。たくさんの人がアメリカの大規模なビジネスを悪いものだと考えている。僕は大規模なビジネスは本当にいいものだと思う。ビジネスをやっている大多数の人は道徳があるし、一生懸命働くし、良い人たちだ。そして能力社会という側面も。ビジネスでも大きな組織が崩れているのが見れると思うが、他の分野に比べたら少ない方だと思う。

Wired:構造的な経済の変化が大企業のサイズを縮小するとは思いませんか?

ジョブズ:変化に注意を払っていない大企業は痛い目を見ると思う。ウェブはとても重要な変化がある分野だから、注意を払っていないと損失を被る。逆に早くから適応する企業は報われる。

ウェブはビジネスが直面する数ある大きな変化の1つにすぎない。今後10年はウェブがその大きな変化になるだろう。

Wired:しかし、ウェブは個人の自由を促進するものにはなりませんか?

ジョブズ:階層のフラット化をするだろう。個人がとても力を入れたウェブサイトをアップすれば、世界の大企業が作ったものを同じように素晴らしくみえるだろう。個人を組織と同じレベルに持ってくる、もしくは小さなグループをリソースにも恵まれた大きなグループと同等レベルに持ってくる、そんな階層のフラット化を促すものは個人的に大好きだ。ウェブとインターネットはそれを可能にする。とてもインパクトが大きくて良いことだと思う。

Wired:でもWeb Objectsのお客さんの大部分は企業では?

ジョブズ:そうだね。大きい会社が多い。

Wired:それって対立を引き起こさないですか?

ジョブズ:もちろん。だからこそ我々はWeb Objectsを個人や教育機関に商業利用しないという条件で無償で配布しているんだ。無償で提供するという判断をしたんだ。


[ウェブが招く災難]

Wired:Hot Javaのようなものをどう思いますか?

ジョブズ:そういったものがウェブのスタンダードになるには相当な時間がかかる。そしてそれはウェブを阻害するものになるかもしれない。もしウェブが複雑になりすぎたり、セキュリティの問題に満ちあふれていたりしたらウェブの拡散が止まってしまうか、遅くなるかもしれない。ウェブで一番大切なことはマイクロソフトの先をいくことだ。複雑化することじゃない。

Wired:とても面白いですね。Javaはクライアント側に技術を集中していますが、それは違うと思いますか?

ジョブズ:僕の意見?次の2年を考えると大間違いだね。だってユビキタス化を遅らせるかもしれないから。そして、ユビキタス化を遅らせるとマイクロソフトが追いついてしまう。もしマイクロソフトが追いついてしまったら、ウェブでワードができないこと以上に深刻な問題になるよ。こういうものは後で直せるからね。

今、閉じてしまいそうな窓がある。もし次の2年にゴールラインに到達していなければマイクロソフトがウェブを占有するだろう。そしたら終わりだ。

Wired:仮に多くの人がマイクロソフトの代わりとなる標準的なウェブを望んだとしましょう。しかし、個々のウェブ会社やウェブ上での情報発信者は自分のサイトがワクワクするものであり続けることにを望みます。私はHot Wiredをやっているのでわかります。そうすると人々をHot Javaに入れないといけないし、シンプルさを保ということからはかけ離れてしまいます。他に選択肢が無いので、私たちは人々をより複雑な方向に向けているものの一部となっているのです。

ジョブズ:複雑化するというのはクライアント側にたくさんの処理を押し付けるからではなくて、フェデェックスのような価値提供をサーバー側を複雑化することで実現するということだ。

僕はクライアント側が賢くなるにつれて、ウェブが細かく分かれていかないかが不安なんだ。ウェブは1つのスタンダードで支配されるということにはならない。いくつかのスタンダードができて、ぶつかりあう。それぞれに問題がある。だからスタンダードを1つに絞ろうというのは簡単だ。でもそうすると断片的になったウェブコミュニティはマイクロソフトの手に落ちる。

Wired:団体協約によって?

ジョブズ:そうだね。団体協約によって。もちろん。ユビキタス化だ。もしウィンドウズがユビキタスになれるのであれば、既存のウェブだってできる。

Wired:どうやってウィンドウズがユビキタス化するのですか?

ジョブズ:業界の自己利益の力でウィンドウズはユビキタス化するよ。コンパックや他のベンダーはウィンドウズをユビキタス化した。彼らはソフトウェアのスペルさえ知らなかったのに、自分の機械に何かを入れたかったんだ。それがウィンドウズをユビキタス化した。

Wired:じゃあ、それは偶然に起こったと?

ジョブズ:いや、みんなの利益の追求が足並みそろって動き出したアルゴリズムという感じかな。僕は似たような動きが今はウェブにあると思っている。みんながウェブを普遍的なものにしようと、誰かが所有するのでは無く、特にマイクロソフトね。

Wired:デスクトップは我々がコンピュータを理解するときの象徴となりますか?それとも他によい例えはありますか?

ジョブズ:新しいメタファーには、新しい問題が必要だ。デスクトップの比喩が使われたのは1つは人が独立した機器だから、そしてもう1つは自身のストレージを管理しなければいけないから。それはデスクトップの世界ではとても大きな問題なんだ。無くなるかもしれないけどね。自分で何かを保存し、それを管理するということをしなくなるかもしれない。近い将来、保存ということをしなくなるだろう。

僕は何も保存していない、本当に。メールやウェブをたくさん使うが、どちらも自分でストレージを管理する必要はない。言ってしまうと、一番気に入っている自分へのリマインドの方法は自分自身にメールを送ることだ。それが僕の保存方法さ。

自分のストレージを管理しなくてよくなったら、常にウェブにつながっていてスタンドアローンの世界ではなくなれば、新しい比喩も出てくるだろうね。


[GrokKing design]

Wired:あなたは優れたデザインの製品を作ることで知られています。なぜ他の多くの製品は良いデザインでないものが多いのでしょう?

ジョブズ:ある人にとってはデザインが「どう見えるか」ということかもしれない。でも、もっと深く追求すると、デザインは「どう機能するか」だ。何かとてもよいものをデザインするのであれば、本当にそれを理解しなければならない。心から完全に把握しなければならない。それには情熱をもった意思と理解が必要だ。多くの人はそれを怠っているんだよ。

クリエイティビティとは実はただ物事をつなげるだけなんだ。もし、クリエイティブな人にどうやったらそんなことができるのかを尋ねたら、おそらくその人はすこし申し訳ない気持ちになるだろう。だって彼らは本当にやったわけではないから。彼らはただ何かを見ただけなんだ。しばらくするとそれが普通になる。それは彼らが自身の経験を結ぶことができて新しいものと融合させることができたからだ。彼らがクリエイティブなことができた理由というのは、単純に他の人よりも多くの経験を積んでいたか、他の人よりももっと深くそれらの経験を考え抜いたからだろう。

残念ながらそんなことが起こるのは稀だ。多くの人はそんなに幅広い経験を持っているわけではない。だから彼らはつなげるための十分な点を持っていないんだ。だからいつも視野の狭い直線的な結論に至ってしまうんだ。人としての幅広い経験と理解が良いデザインを生むんだ。

Wired:あなたが刺激を受けるようなデザインというのはありますか?

ジョブズ:デザインは派手な新しいガジェットの話だけじゃない。僕は家に新しい乾燥機付き洗濯機を買ったんだ。それが全然良くなかったから僕たち家族は時間をかけて見てみた。そしたら、アメリカ人は洗う部分と乾かす部分を全く間違えて作っているんだ。ヨーロッパの製品の方が断然いい。でも衣類を乾燥させる時間が2倍かかってしまう。後でわかったことなんだけど、その洗濯機は4分の1程度の水で洗い、布にあまり洗剤がつかない。もっと大事なのは布が傷まないこと。使っている石けんが少なく、水も少ないが断然きれいだし、やわらかいし、長持ちする。

僕たちは家でこの洗濯機が生み出すトレードオフについて話し合った。デザインや家族にとっての価値という観点でね。1時間で洗濯が終わるのと1時間半で終わるのではどちらがいいか?それよりも出来上がりが柔らかく、長持ちする方がいいか?4分の1しか水を使わないことに関してはどうか?これについて2週間、毎晩夕食のときに話し合った。

結局僕たちはドイツのMiele製の電化製品にすることにした。誰もこの国で買わないからとても高かったけどね。でもとってもよく作られていて、ここ数年で買った中でかなり満足している製品のうちの一つだよ。これを作った人はほんとうにこの商品に関して考え尽くしている。この乾燥機付き洗濯機をつくるのにとても素晴らしい仕事をしたんだ。ここ数年で出会ったどのハイテクな商品よりも、感動したね。

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